新潟県・佐渡島のトキが繁殖期を迎えた。平成20年秋の放鳥開始から7回目。雄は巣作りの場所選びに忙しく、雌は雄を探し飛び回る。「クァッ、クァッ、ター」。雑木林にこだまする求愛の鳴き声。これまで、トキの夫婦は愛情が深いとされていたが、今年は常識を覆す、ひと組のつがいが注目を集めている。
4歳の雌と5歳の雄で、いずれも昨年は別の個体と夫婦だった。雌はヒナ2羽を巣立ちまで育てた優等生。試験放鳥からモニタリングを続ける古屋栄作さんによると「2羽が行動をともにし始めたのは1月後半から」という。雌は昨年ペアだった雄の横で、5歳の雄と愛情表現の擬交尾を繰り返し、2月に入ると2羽で連日行動をともにしている。
自然界での繁殖成功後、3シーズンの調査では、ヒナを育て上げた夫婦が翌年ペアを解消した例はない。新潟大の永田尚志教授(保全生態学)は「動物は経験を元に行動し、できるだけ多くの子どもを残そうとする。ペアの組み直しは繁殖失敗の可能性が高まるのに…」と首をかしげる。
飼育下のトキは「オシドリよりオシドリ夫婦」などとされていたが、自然の中では違っていた。一昨年には子育て中の雌が育児放棄、別の雄と巣作りする〝不倫行動〟を確認した。鳥類の多くは雌が雄を選びペアになる。判断基準は鳴き声や華麗な羽根、ダンス|などだ。しかし、繁殖期のトキは雄雌とも真っ黒な生殖羽に変化し「選ぶ基準は未解明」(永田教授)という。
放鳥開始以降、自然界では既に3世代目が誕生したが、両親のいずれかは放鳥トキ。今年は、雌雄共に自然界生まれのペア誕生が取り沙汰されている。日本野鳥の会佐渡支部の土屋正起副支部長は「繁殖期は何が起きても不思議じゃない。今年は何が…」と期待する。モニタリングチームがワクワクしながら続ける観察は3カ月間に及ぶ。
探訪 新潟・佐渡の放鳥トキ 再婚もあり?恋の季節
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